若者よ 農家をめざせ

カンブリア宮殿2009年1月12日放送の「若者よ 農家をめざせ」を見た。ゲストは嶋崎秀樹氏(トップリバー社長)

http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/list/list20090112.html

トップリバー(長野県)は農業を志す都会の若者たちを社員に採用して急成長を遂げる農業の会社。
社員たちは皆、Iターンの転職者たち。社長の嶋崎秀樹も元製菓メーカーの営業マン。
生産物はレタス、白菜など。嶋崎社長は一切農作業をせず、営業に専心する。
若者たちは朝4時には出社、5時から畑で農作業開始。
朝食は畑で済ませ、昼の2時間の休憩を挟んで、夕方5時まで働く。
農作業を終えると夜は事務所で作物の生育状況、これからの作付け計画、収穫の適期などを話し合う。
そんな厳しい労働だが、皆、生き生きと働いている。
それを支えているのは農家として自立したいという夢だ。

嶋崎は日本の農業が怠ってきた人材育成に力を入れているのだ。それは社員たちを必ず一人前の農家に育てるという情熱。一人前になるには10年はかかると言われる農業だが、5年で独立させる。
高齢化と後継者不足に悩む日本の農業に新しい風を吹き込んでいると注目を集めている。

もうひとつ、トップリバーの特徴は、マネージメント農業。
今までの農業は作物を作るだけで、相場で価格が変動する市場頼りで、売る努力をしてこなかったため、満足な収入が得られなかった。
しかし嶋崎は直接、スーパー、コンビニ、外食、生協50社と年間契約し、確実な収入を得ている。
これからの農業は作るだけでなくマネージメント、すなわち営業努力もしければ未来はないというのが嶋崎の農業哲学。しかし契約栽培ではたとえ天候不順で不作となっても契約量は必ず守らなければならないという厳しい現実。
それを実行する嶋崎は得意先の信頼を得、売り上げは設立当初の27倍の10億円に増えた。

嶋崎は「儲かる農業」が持論。そのノウハウを嶋崎の下で6年間学んだ社員のひとり、松田が来年1月から農家として独立することになった。
妻と2人の子どもを持つ松田は今、自信を持って独立への道を歩みだした。

大地で汗を流して働く若者のすがすがしい日々を追いながら、彼らが若い感覚と情熱で、どのように困難を乗り越えていくのか、そうした新・農業人が日本の農業をどのように支えていこうとしているのかを描きつつ、嶋崎さんが目指す新しい農業のありかたを伝える。(カンブリア宮殿ホームページより引用)

日本の農業は、農業の担い手の高齢化・後継者難や国際的な産地間競争などの問題に直面している。そのため、農地を適切に利用・管理して、将来世代に継承していくことは容易ではなく、耕作放棄地が拡大している。耕作放棄地は農林水産省の発表によれば、2005年現在38万Ha(埼玉県と同程度)あるとされる。*1

これはさすがにやばいということで、近年、農地法が改正され、規制が緩和され続けている。既存の農地法が足枷になって、日本の農業の衰退を招いているといった判断からだ。改正の方向性としては、農地の所有者だけが耕作することとされていたものが、誰でも耕作(農地の利用)が可能となるというものだ。*2

以上のような規制緩和をチャンスと見たか、農業に参入する企業も増えている。そんな企業に必見ということで、農業生産法人として急成長しているトップリバーの特徴が紹介されていた。まとめると以下の3点。

Ⅰ農地をレンタルし、野菜を栽培
Ⅱ市場に卸さず、企業と直接取引(年間契約)
Ⅲ社員に非農家の若者を採用。そして3〜6年後に社員を独立させる

農地をレンタルし、野菜を栽培
もはや、農地を所有することに意味はない。遊休地(様々な事情により農家が栽培を行っていないような土地)を見つけ、レンタル契約して、そこで栽培をする。農家にも悪い話ではあるまい。

市場に卸さず、企業と直接取引(年間契約)
市場に卸すと、中間業者に多額のマージンを支払うことになり、生産者、取引企業の双方にしわ寄せがきてしまう。中間業者を排除することによって、生産者の収入は増加、取引企業にはより低価格での提供といったことが可能となる。このように中間業者を排除するためには、安定的に農産物を供給し、信頼を得ることが必要である。「台風が来て、農産物が全滅してしまったんで、今年は供給できません」という言い訳は許されない。信頼を失わないために、他所から卸値の2・3倍の値段(もちろん赤字)で仕入れててでも、取引企業に供給するという姿勢には痺れた。信頼を失わないとはそういうことなんだろう。

社員に非農家の若者を採用。そして3〜6年後に社員を独立させる
非農家の若者の方がやる気あるみたい。実際、今時都市で就農セミナーをすると、ものすごい数の20歳代がくるんだとか。そして、3〜6年後に社員を独立させるとか、リクルートみたい(笑)


社長は会社を大きくすることにはあまり興味がないらしく、社員が独立して、幸せになってもらえればよいと言う。子供はいつか独り立ちするものであり、親は子供を立派に独り立ちさせる義務がある。農業にはそんな家族的発想が必要なんだとか。「これからは農業にもビジネステクを持ち込んで、バンバン利益をあげなあかんのですよ〜!」と儲け一辺倒の発想で農業に飛び込むと、意外と成功は難しいかも。農業の分野に限らないけど、企業の最大の目的は利益ではなく、継続することにあるのだから。
参考文献

農地制度 何が問題なのか

農地制度 何が問題なのか

*1:この面積が大きいかどうかは意見の分かれるところだが

*2:今年の通常国会で承認される予定の「所有から利用への転換による農地の有効利用の促進」では「所有権と利用権の分離」という項目が含まれており、これは「農地はその耕作者みずからが所有する」とする農地法を抜本的に修正するものであり、農地法オワタと言える。